偉大な牛

田上嘉一超公式ブログ

朝起きてだるかったら有給を取ってよい

炎上して削除されたマイナビ ウーマンの記事

 さる1月25日、マイナビ ウーマンにおいて、「意味わかんない!『社会人としてありえない』有給取得の理由7つ!」という記事が掲載されました。

 現在は、「法的趣旨を誤解させる表現がございました。内容が不適切と判断し、該当記事を削除させていただきました。読者の皆様に深くお詫び申し上げます。」ということで、該当の記事が削除されています。

お詫びと訂正|「マイナビウーマン」

 というわけで今ではもう読むことができませんが、この記事では、以下のような理由で有給を取ることは、社会人としてありえないということで列挙されていました。

(1)寝坊したから
(2)二日酔いがヒドいから
(3)やる気が出ないから
(4)彼氏と大ゲンカしたから、振られたから
(5)体が痛いから
(6)天気が悪いから

 この記事が公開された直後から、あっちこっちから「何言ってんだ」「法律上の権利だということをわかっていないのか」「転職サイトがこんな記事を掲載するなんて」と集中砲火を浴びて、削除にいたったわけあります。

今度は自分がフルボッコにあう

 そこで、私も「乗るしかない!このビッグウェーブに!」という思い立ち、Facebook上で「有給は権利。「今日は気分がのらない、だるい」と思えば取ればいいのです」とコメントしてみたところ、今度は私が集中砲火を浴びる羽目に。

「突然の不可抗力を除く休みは無理です、権利としても、基本的に業務命令が先行するはずです」
「基本的に労働者は守り育てるのも雇用側の義務です」
「弁護士の先生が全能とは思っていません。弁護士の先生が全能ならば、そもそも裁判官なんていりません。」
「弁護士にも裁判官にも無能な人も有能な人もいます。しっかりと自分の考えで行動できる社会人でありたいですね。」
「弁護士さんが全員労基法に詳しいわけではないので、その辺りは労務管理士さんとか社会保険労務士さんの方がより的確だとは思いますね。」

(一部抜粋)

といったようなバッシングをたくさん浴びました。

 この心温まるコメントをいただいた方たちは直接存じ上げなかったのですが、横に並ぶプロフィール写真から拝察するに、皆さん50-60代あたりの人らしく、偏見を持ってはいかんと思いつつも、「これが・・・・世代か・・・」と感じてしまった次第です。

 私も弁護士が全能とは思ってないですが(そんなこと思ってる弁護士は一人もいないと思いますが)、労働基準法については多少は勉強しております。ましてや労務管理士を引き合いに出されてまで批判されると、ちょっと怒りを覚えるというか、逆に笑えてくるような次第ですが、この人達の凝り固まった古めかしい考え方と、法制度に対する無知蒙昧さは、ひょっとしたら社会における害悪なのではないかと思うと、少し背筋が寒くなりました。

年次有給休暇は労働者の権利である

 ひょっとしたら誤解している方もいるかもしれませんが、基本的に企業と労働者とは、労働契約という雇用関係における対等な契約当事者です。
 そして、年次有給休暇は、労働基準法39条で認められた労働者の権利です。この権利を行使するにあたっては、使用者の承認や許可などまったくもって不要ですし、ましてや権利行使に理由など必要ありません。

 「朝起きてだるい、気分が乗らない、やる気がでない、、、という理由で休むなんて!」と怒っている人たちがいますが、そもそも「朝起きてだるかったり」「気分が乗らなかったり」「やる気がでなかったり」するときに「自由に休んでいいよ!」というのが年次有給休暇という制度なのです。有給取得に怒るのは勝手ですが、怒るのであれば有給を取った人ではなく法律に怒りましょう。

 なお、使用者側は、労働者側の年次有給休暇に対し、時季変更権を行使することもできますが、これはあくまで例外的なもので、「事業の正常な運営を妨げる」事情があれば、使用者は、請求があった日を別の日に変更することができることになっています。
「事業の運営を妨げる」とは、事業の内容、規模、労働者の担当業務の内容、業務の繁閑、予定された年休の日数、他の労働者の休暇との調整など諸般の事情を総合判断する必要があり、日常的に業務が忙しいことや慢性的に人手が足りないことだけでは、この要件は充たされないと考えられています。判例もあります(時事通信社事件・最三小判平4年6月23日)。

 というわけで、マイナビ ウーマンの記事はまったくもって法律的に間違いだらけのものなので、こうしたものはせいぜいがマナーとか常識といった程度のものでしかなく、このようなものを強要するのは「我が社はブラック企業です」と自ら宣言するのに等しいため、批判されるのは致し方ないところです。せっかく安倍内閣が「働き方改革」で、諸外国より圧倒的に年次有給休暇の取得を促進しようとしているこの時期にまったく馬鹿な記事を書いたものです。
 ましてや、「基本的に労働者は守り育てるのも雇用側の義務です」なんて、いったいいつの時代の話なのだろうかと目眩がします。

記事に対する反応で解る法制度の理解度

 こうした会社を擬似家族とする終身雇用システムが作り上げられたのは、石原莞爾、宮崎正義らの日満財政経済研究会の構想、それを受けた岸信介、美濃部洋次、秋永月三ら企画院を中心とする革新官僚による、戦時下における統制経済国家社会主義の名残です。この時期に、資本と経営が分離し、資本市場による直接金融製からメインバンクによる間接金融制へと移行し、ホワイトカラーとブルーカラーの格差が消滅して「従業員」が生まれ、流動性の高かった労働者が終身雇用制度へと取り込まれていきます。この日本型雇用システムは戦後の高度経済成長期においてはおそろしく機能しましたが、その基礎は戦時下において完成されたのです。

 未だに「有給とるならちゃんとした理由をいいなさい」というのはこの時代の統制的な発想が残っている人なのでしょうが、法制度の理解という点では0点です。その意味で今回の記事を巡る事件は、その理解度をはかるちょうどいいリトマス試験紙だったのではないかと思います。

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