偉大な牛

田上嘉一超公式ブログ

ある役割を担わせるのであれば、しかるべき権限を与えよという当たり前の話

週末に少し思うところがあったのでまとめておく。

権限・裁量と責任とは表裏一体、不即不離だというのはよく言われていることだが、これを実現させるのは上司、ひいては経営者の役割であり責務である。
チーム内のスタッフ、マネージャー(リーダー)というところでも当然当てはまる話だが、ある程度の事業を任せる事業部長レベルになっても、同じことは当てはまるし、取締役の下位において、会社の部門や会社全体を管掌する場合においても同じことだろう。

役職はその人間の行動を規定する。
能力の低い人間を昇格させて高い地位につけても機能しないのは誰でもわかることだが、逆に能力の高い人間をまずはお試しで低い地位に置いてもやはり機能しないのだ。
「能力の高い人であれば、どんな役職であっても機能するだろう」と思う人がいるかもしれないが、それは実際にはそうでない場合が多い。
正確には、「その人の持てる能力の100%を発揮することはない」ということだ。

能力が高い人材であっても、大した責任もなく権限もないようなポジションにおくとしよう。
たとえば、中途で外部から転職してきた人である。
この場合、優秀な人材であることがある程度事前にわかっていたとしても、従来からいる他の従業員に対する配慮や、実際に使えなかった場合のリスクなどを考えて、とりあえずはお試しということで、小さな権限のポジションに置いてみるということがよくある。

「小さくてもいいからまずはここで成果を出して周囲にその能力を認めさせてほしい。そうすれば次のステップに進める」とかなんとかいう。
もちろん、そうすることはある意味で合理性のある場合が多いし、うまくいく場合もあるだろう。

しかし、すべての場合にうまくいくやり方などない。
うまい具合に好シナリオにはまればいいが、うまくいかないケースも考えられる。
このように軽いポジションに配置された人は、仮に能力が高く全社的に貢献できる人材であったとしても、まずは設定された目標に合わせた部分最適となりやすい。結果的に高次の全体最適のためのパフォーマンスを発揮するのが難しくなってしまったり、タイムラグが生じてしまったりすることなどがある。

そしてワーストケースシナリオとしては、「とりあえず今のポジションにおいて成果を上げてほしいが、君に対する期待値は高いので、できれば他の部署を含めて全体的に俯瞰し、現状の課題を分析した上で解決策となる全社の戦略決定などについても積極的にからんでいって欲しい」などとやってしまうことである。
そう言われても、当人にはこれといった権限も裁量もないので、このような命題は最初から不可能となることがわかっている。
機能しないだけであればまだよいが、このリクエストに真摯に答えてしまうと、むしろ他部署の人間との間に軋轢を生んでしまうことすらありえるだろう。

これは、本来的に武力行使の権限を持たない自衛隊に対して、「いざとなれば超法規的に対応せよ」、というようなものに似ていて、経営者としては絶対に行ってはならないものである。
こうしたオーダーを行ってしまうことの根底には、社内に軋轢を生むことをおそれるあまり、抜擢人事を行う気構えもないくせに、部下に役割以上の働きを期待してしまうという助平心にある。
最初の軋轢は比較的に小さなものであれば、どこかの時点で改革的な人事を行うべきであるし、そのリスクが相対的に高いのであればそもそもそのようなオーダーを出すべきではないのである。

そもそもそういった人材を獲得したことには本来的な狙いがあるはずで、社内におけるある課題を解決するためであろう(そうでなければそもそも抜擢人事は必要ない)。
したがって、①抜擢人事を行うことによって生まれる社内の軋轢というリスクと、②抜擢人事を行わず現状の課題をおざなりにするというリスクの、比較衡量ということになる。

抜擢人事という解決策は、双方のリスクの後者しか解決できないのであるから、これを行わずに後者をもあわせて対策しようというのは、不合理であり不誠実ですらある。

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